子どもに、子どもを取り巻く環境に
支援が届くように
―小学生から母への精神的なケアを担ってきた亀山裕樹さんの場合―
亀山 裕樹(かめやま ゆうき)さん
小学校高学年からひとり親の母のケアとして、精神的に不安定になったときに声掛け・見守りといった精神面のサポートを担っていた。現在は北海道大学大学院教育学院博士後期課程に所属しながら、ヤングケアラーや貧困について研究をしている。研究の傍ら、「子ども・若者ケアラーの声を届けようプロジェクト」や日本ケアラー連盟の「スピーカーズバンク」などでも活動を行っている。
ヤングケアラーへの支援政策が広がり始めた2021年度。しかし「ヤングケアラー」という言葉で括りきれないほど、家族やきょうだいへのケアを取り巻く状況は様々です。今回は、小学5年生頃から母のケアを続け、学業に勤しみ、現在はケアと経済的貧困の関係について研究する亀山裕樹さんに、ケアの始まったころから、今改めて感じるところまでお話を伺いました。以下ではそのインタビューの様子の一部をご紹介します。
ケアの始まり
私は小学校5、6年生くらいの頃から母への精神的なケアを担っていました。母が父から言葉の暴力を受けたときに怯えて、家具でバリケードのようなものを作っていた母の姿が印象的で、言葉にするなら「悲しい」という感情でした。
その後父母は離婚して、私は母と暮らしていました。その後高校生の頃、家を引っ越すかどうか、という時期がありました。自身としては引っ越しをすると、通っている高校からの距離が遠く、車で片道1時間半かけないと通えなくなってしまうので、引っ越しはいやだったのですが。母から「引っ越しをしないと生きているのが辛い。うつ病がひどくなるかも。」と言われ、受け入れざるを得ませんでした。
引っ越し後も生活スペースが1つしかなく、午後6時ごろには床に着く母の横で、ついたて1枚をはさんで受験勉強をしないといけなかったり、学校に行きたくても車を運転してくれる母の恋人にお願いをしないといけなかったり、勉強したくても常に気を遣わないといけない状況でした。
また、こうした精神的なしんどさだけでなく、経済的なしんどさもありました。母はうつ病と不安症の影響もありアルバイトが続かず、裕福とは言えませんでした。一方で高校のクラスメイトは、文字通りほとんど塾に通っていたので、自分には通塾の機会がないので周りのことを「いいなぁ」とうらやましく思ったこともありました。
自分自身に必要なこと、母に必要なこと
そうですね、私自身に欲しかった支援もありますが、それだけでなく母への支援がもっとあれば良かったなと思っています。ヤングケアラーのサポートはもちろん必要ですが、自身のケースでは母の暮らしの基盤(経済的な面だけでなく、精神的な面も含む)が整うことが、自分のしんどさを解消することに直結しているように思います。
私自身に欲しかった支援は、心理カウンセラー等に相談する機会ですかね。実は高校生の時に一度だけ、家のことを担任の先生にふと話したことがありました。あの時は「この支援が欲しい!」という明確なものがある訳ではなく、「しんどくて、とにかくなにか助けて…」という感じだと思います。確かに高校生の時は精神的にきつくて…。普段からずっとイライラしていて、あの時自分と一緒に考えてくれる人がそばにいたらよかったのかな、と思います。
例えばスクールカウンセラーによる心理的な支援や、怒りのコントロールの方法を学ぶことも有難い支援です。スクールソーシャルワーカーともし出会えていれば、母の生活保護等、公的な支援に関する正確な情報がもらえたかもしれない、と思いますね。過去に母子生活支援施設に入ることを検討したことがありますが、母から伝えられた情報は少しバイアスがかかっていて、その情報では母子生活支援施設に入所すると決めることができませんでした。
そして、母への支援については、金銭的なものと、公的な支援へのつながりの2つが必要だと感じます。お金がないと母は不安感を強めてしまっていたので、「お金があれば」と当時から思っていました。また、今振り返ってみると引っ越し前までは民生委員とのつながりがありましたが、引っ越し後はそういった支援者とのつながりは切れてしまっていました。このしんどさを自分自身と母以外で知っている人はいなくて、結果的に公的な支援に繋がることはなかったです。
今しんどい思いをする子ども・若者、家庭に支援が届くために
ヤングケアラーといっても状況は人それぞれなので、あくまで自分自身の体験から言えることですが。ケアラーが自身で自由にできる時間や空間が十分に確保されていないことは課題だと思っていて、少しでも状況が改善すると良いと思います。ただヤングケアラーの問題が部分的に切り取られてしまい、子供の意見か親の意見か、どちらかしか優先出来ないという状況は望ましくないとも思っていて、家庭全体で考えていけると良いのだと感じています。
またケアをしていることを人に言いたくない、知られたくない人もいますが、自分自身が言いたいと思ったタイミングで、話を聞いてくれるような場が広がればと思っています。こういった場で大切なのは、言えるタイミングをケアラー自身が選べることで、「ヤングケアラーだから」といきなり声をかけられるような、特別扱いはされたくないですね。
最後に大学生の今だから感じることは、ケアをしたい人がケアを維持していく支援も重要だと思いますが、ケアから離れるための支援も大切だと思っています。もちろんケアを続けたいケアラーもいますので、大切なことは、それぞれのケアラーが何を求めているのかの声に耳を傾けることだと思います。
編集後記
自分自身の世界観を拡げてくれたきっかけは勉強だったという亀山さんですが、一時期は勉強をする場所、時間を確保することも難しかったことを教えてくださいました。自分自身が自由にできる時間・空間を守れているのか、しんどい状況を相談したいと思ったときに相談できて支援に繋がったのか、まだまだヤングケアラーの詳細な実態は掴み切れていません。詳細な実態調査と、あるべき支援策の検討を進める必要があると感じたインタビューでした。なお、本座談会はオンラインで実施しております。
(編集者:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)